2023-08-16

お盆とキャッチコピー

 ここ数年、私にとってお盆は、あるカタログのキャッチコピーをつくるお仕事の時期。商品のすばらしさを伝える、簡潔な、いわゆる「刺さる」言葉を探す工程は、何度やっても難しくて面白いものです。一時期は、ネタ帳を作って使えそうな言葉を収集したこともありましたが、そうすると今度は言葉に縛られてしまうもの。鉛槧の傭です。しっくりする表現にたどり着くには、小手先の工夫より根本的に語彙を鍛える必要があると思い知らされました。

 そんな仕事をしていて思い出すのは、思いがけず目に入った言葉に勇気をもらった経験です。特に気持ちが落ち込んでいるとき、商品のキャッチコピーでも、本や映画の宣伝文句でも、ときには街頭の看板でも、まるで自分に語り掛けてくるような言葉に圧倒されたことが何度もあります。それは、本来その言葉に託されたはたらきとは違うかもしれないけれど、私の心に深く残って、その後の人生にまで影響を及ぼしました。

 だから、すぐに購買意欲に直結することも大切だけれど、時間をかけ、あるいは形を変えて、染みこむようにその商品の良さを伝えられたらといつも思います。煽るような売り文句ではなく、本当に必要になったときに、一番に思い出してもらえるキャッチコピー。そんな言葉を探していたら、想像力の射程は広く、遠くなる。日ごろから、自分の言葉がどれだけ人の気持ちを想像できているかは自問しているつもりですが、その問いをもっと深めていくのが、私にとってのこの仕事です。ご先祖様に思いを馳せるお盆に、なんともふさわしいひとときです。感謝。

(西村)

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