再びめぐりあう日に
忙しさの中で見落としていたものに再び出合う時、よく知っていると思っていたものが新鮮に見えることがあります。
去る2月11日、「怪物」上映&是枝裕和監督トークショーに参加してきました。
会場は、一昨年の火災を経て2023年12月に再建・営業再開した小倉昭和館。SNSやメディア等で竣工写真は拝見していたものの、やっと足を運ぶことができました。
ゲストとして登壇された是枝裕和監督は「そして、父になる」「万引き家族」などで知られる、日本を代表する監督。「怪物」は坂元裕二さんが脚本を手掛け、故・坂本龍一さんが音楽を担当されたこともあって、公開当時から話題になった作品です。
映画は好きな方だと思いますが、是枝監督のお名前を初めて拝見したのは、実は大学に来ていた求人票でした。テレビマンユニオンという制作会社の会社概要に、「幻の光」という映画作品が紹介されていたのです。ドキュメンタリーを得意とする会社で働いていらっしゃったことは、監督の映像表現にも大きく影響を与えているのだと思います。
座り心地の良い椅子に座って観た「怪物」は、多層的なストーリーであっという間に観客を映画の世界観に引き込んでいく作品でした。小さな町で起きる出来事が、正体や原因がよくわからないままどんどん周囲の人たちを巻き込み、傷つけていきます。しかし、傷つけられているはずの人が、違う場面では加害者にもなっていて――あるシーンでは、前に座った男性が恐らく驚きのあまりビクッと肩を動かすのが見えました。オンデマンド配信で様々な国や年代の映画を見ることができる時代ですが、見ず知らずの人と隣り合って、同じスクリーンを見つめる体験はやはり貴重ですね。
また、終映後には是枝監督が登壇。観客の皆さんからの質問に、役者さんのこと、映画制作のことなど丁寧に答えてくださる姿がとても印象に残りました。
「一人の映画ファンとして映画館があって、映画館に皆さんが足を運んでくださることが嬉しい」
最後にそうコメントをされていたことが心に残りました。
シンプルなことですが、監督も映画がとても好きな方なのだなあ、と。
そして最近もうひとつ、めぐりあいを感じることがありました。
福岡時代にお世話になった野口実柑(みかん)さんが、第54回九州芸術祭文学賞の最優秀作に選出されたことです(現在、熊本市でライターの仕事をされています)。
私が頻繁にお会いしていた時代はちょうど創作をされていなかった時期だったようですが、当時も丁寧に言葉を選び、形にされていた姿がとても印象に残っています。
受賞作品「白い朝」は20年前に書かれたものに再び向き合い、執筆された作品だと伺っています。
仕事としてたくさんの文章を書かれる中で、日々さまざまな物事や人と出合われたこと。文章を作品として完成されたこと、作品が受賞によって広く読まれるものとなって、また新しいスタート地点に立たれたこと。勝手ながら、とても嬉しく思っています。
受賞作は「文學界」4月号に掲載予定とのこと。どんな作品なのか、拝読するのが楽しみです!
(石原)
コメントを残す