2023-10-26

「普段着」の北九州に出あえる映画

北九州市発足から今年で60年。

『ゴジラ−1.0(マイナスワン)』を記念作品として前哨戦が繰り広げられるゴジラ70周年や、ディズニー創立100周年なんかとくらべちゃうと道半ば感はあるが、立派なもんである。

門司(もじ)、小倉(こくら)、若松(わかまつ)、八幡(やはた)、戸畑(とばた)、世界に類を見ない5市対等合併による北九州市の誕生は、2週にわたって北九州をテーマにした『ブラタモリ』でも「合体メガタウン!」なんてタイトルで取り上げてた。

そういえば、戸畑区一枝(いちえだ)にある旧安川邸で開催される運びとなった竜王戦第3局、史上初八冠達成の藤井聡太竜王と伊藤匠七段による同学年頂上対決も、市政60周年記念事業なんだって。

というわけで、そんな節目の年に公開された、北九州を舞台にした映画を紹介したい。

北九州市出身の俳優、光石研主演の『逃げきれた夢』。

監督・脚本の二ノ宮隆太郎は、「2019フィルメックス新人監督賞」を受賞した気鋭で、光石研を俳優としてリスペクトするあまり、自らも同じ事務所に所属しちゃったという人。本作の脚本執筆にあたっては、光石本人の生い立ちを取材し、そのエッセンスを物語に取り入れている。

端的にいえば、人生のターニングポイントを迎えた、定時制高校で教頭を務める男の話だが、光石研を育んだ北九州を物語の舞台に据えてあり、北九州オールロケ作品に仕上がっている。

そのため、光石の母校、黒崎中央小学校や、子供の頃に遊んだという黒崎中央公園、「北九州のソウルフード」としておなじみ、サニーパンのシロヤ(黒崎店)が登場する。

そのほかにも、八幡中央町商店街、西南女学院、門司の風師(かざし)公園、若松の高塔(たかとう)霊園、市役所本庁舎の食堂、板櫃(いたびつ)川など、地域の市民になじみ深い場所が盛りだくさん。

何がいいって、北九州の街の「日常にある風景」が、穏やかな物語ととけ合うように、さりげなく出てくるのがいい。

北九州でロケをした映像作品の多くに出てくるのは、小倉駅前のペデストリアンデッキとか、門司港レトロとか、若戸大橋とか、皿倉山からの夜景とか、平尾台とか、いわゆる観光スポットというか「画力」がある場所で、作品によっては「これみよがし感」「とってつけた感」が前に出てしまうことさえある。

人目を気にした「よそ行き」の風景ではなく、「普段着」の北九州が見られるのが『逃げきれた夢』なのだ。

慣れ親しんだ北九州から離れて別の土地で暮らしている、なんて人に観てほしい。懐かしい風景に、ほっこりしたり胸を熱くしたりしてほしい。

風景だけじゃなくて、光石研と同じく北九州出身の吉本美憂ら「ネイティブ」による北九州弁、さらには、主人公の旧友役の松重豊が三連発で放つ「しゃあしい」も堪能できるんやけ、「いやあ参った。どうしようかね、これから」っち、主人公の台詞を良い意味で言いたくなるぐらい、おれらにはたまらん映画なんよ。

6月に公開された作品なので、現在も上映されているところはほとんどないが、公式サイトによると12月6日にDVDとブルーレイがリリースされるそうです。

(堀 雅俊)

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