2021-06-26

食卓の向こうに

最近、小学6年生の長女が台所に立つようになりました。野菜の切り方、出汁の取り方、祖母の得意料理…。一つひとつを伝えるひとときを愛おしく感じるようになったのは、私自身が歳を取ったからでしょうか。「ぬか漬け大臣」(笑)を自称する下の子がぬか床をかきまぜる姿も、頼もしく眺めています。

料理とは、伝えること。私も心掛けてきたそんな思いを分かち合える料理研究家が、北九州市におられます。八幡西区の山田志津さんは、風土や季節感を意識した、家庭料理のエキスパート。コロナ禍で様々な活動が制限されるなか、5年前に始めた子ども向けの料理教室を、中高生も加えた「キタQ自炊塾」へとこのたび進化させました。「子どもの今は、今しかない」と逆境を跳ね返す姿は、記者としても母としても、目を見張るような輝きに満ちていました。

コロナ禍で得たものがあったとすればそれは、「家でどう過ごすかをこんなにも真剣に考えた」ことだったと思います。毎日繰り返される命の営みそのものを見直す日々。食べることは命と直結しているから、料理には地域と人間の歴史が詰まっています。多くの料理研究家が哲学的であるのは、きっとそんな理由から。感動や驚嘆は、当たり前の奥にある。伝え続けることで見つかるものを、料理と、そして記者としての仕事で、探し続けています。(西村)

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